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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(あ)1461号 判決 1953年11月26日

本籍

大阪市城東区蒲生町四丁目四二三番地

住居

東京都品川区小山四丁目二〇一番地

会社員

坂田和恒

当三〇年

右に対する強要被告事件について、昭和二七年八月八日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人及び原審弁護人牧野芳夫、藤井英男、渡辺喜八から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人牧野芳夫の上告趣意について。

憲法二八条は勤労者の団結権、団体交渉その他の団体行動権を保障しているがこの保障もかかる勤労者の権利の無制限な行使を許容しそれが国民の平等権、自由権、財産権等の基本的人権に優位することを是認するものではなく、従つて勤労者が労働争議において使用者側の自由意志を剥奪し又は極度に抑圧するような行為をすることを認容しているものではない。(昭和二三年(れ)一〇四九号昭和二五年一一月一五日大法廷判決、判例集四巻一一号二二五七頁以下参照)そして本件公訴にかかる被告人の犯行は旧労働組合法施行当時である昭和二三年一二月六日になされたものであるが、同法一条二項の規定は同条一項の目的達成のためにした正当な行為についてのみ刑法三五条の適用を認めたに過ぎないのであつて、勤労者の団体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないと解すべきことは当裁判所大法廷の判例とするところである。然るところ、原審の認定した事実によれば、所論団体交渉の席上被告人が会社側職員である河井、志田等に対し労働者側の要求を受諾しないならば、会社に対する辞職願を書けと申向けこれに応じなければ同人等の身体、自由等に対し如何なる危害が及ぶかもしれないと感ぜしめるような態度を示して脅迫し、よつてその場において同人等をして会社に対する辞職願を作成の上交附せしめて、同人等をして義務のないことを行わしめたというのであつて、かかる被告人の所為が同法一条一項の目的達成のためにする正当行為と目し得ないものであることは多言を要しないところである。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は採用に値しない。

弁護人藤井英男の上告趣意について。

論旨第一点の採用し得ないことは弁護人牧野芳夫の上告趣意に対する説明によつて明白であり、同第二点は違憲をいうけれども事実誤認を前提とするものであつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告本人の上告理由について。

所論は概ね原審の是認した第一審判決が本件犯行に至るまでの事前の事情として説示したところに関し、被告人等のなした労働争議の正当性を説き本件犯行の成否には直接関係のない事項を縷述するに過ぎないものであり、しかも第一審判決及び原判決が憲法二八条に違反するものでないことは弁護人牧野芳夫の上告趣意について説明したとおりである。

されば論旨はいずれも採用に値せず、また記録を調査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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